増える「介護破産」——他人事ではない現実
「介護破産」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。
高齢化が進む日本では、親や配偶者の介護をきっかけに、生活が立ち行かなくなるケースが増えています。
「そんなのは特別な家庭の話でしょう?」と思いたくなるかもしれません。
しかし、介護破産は、ごく普通の家庭にも起こりうる“静かな危機”です。
この記事では、「介護破産」の意味と実態、そして防ぐための具体的な備えを解説していきます。
介護破産とは?——言葉の定義と現状
「介護破産」とは、家族の介護に伴って生活が困窮し、家計が破綻してしまう状態を指します。
具体的には、以下のような状況が含まれます。
- 介護費用の負担で貯金を使い果たし、日常生活にも困る
- 介護のために離職し、収入が減少してローンや生活費が払えなくなる
- 結果として自己破産や生活保護に追い込まれる
近年では、親の介護に苦しむ40〜60代の「老老介護」「ダブルケア」世代に、このリスクが広がっています。
介護が家計を圧迫する3つの要因
介護費用の実態
介護保険を使っても、自己負担は残ります。
在宅介護では月3〜5万円、施設利用では月10〜15万円以上が一般的。
これに医療費や交通費、紙おむつ代などが加わると、予想以上の出費になります。
収入の減少
多くの人が、介護のためにパートタイムへ切り替えたり、仕事を辞めざるを得なくなったりします。
「介護離職」は年間約10万人と言われており、特に女性に多い問題です。
想定外の支出
住宅のバリアフリー化や、急な入院対応、介護用品の購入なども家計を圧迫します。
介護による家計への影響
要因 | 内容 | 経済的影響の例 |
---|---|---|
介護費用 | 施設費、訪問介護、医療費 介護用品 | 月5~15万円 |
収入の減少 | 介護離職、時短勤務、仕事の制限 | 年収100万円以上の減収も |
想定外の支出 | バリアフリー改修、急な入院 交通費、サポート人件費など | 数万~数十万円の一時支出 |
支出シミュレーション(在宅介護 vs 施設介護)
項目 | 在宅介護モデル(月額) | 施設介護モデル(月額) | 備考 |
---|---|---|---|
ケアマネ/介護サービス費 | 約15,000円 | 施設利用費に含まれる | 要介護3 自己負担1割で想定 |
訪問介護/通所介護 | 約25,000円 | – | デイサービス +ヘルパー週2回 |
介護用品(紙おむつ等) | 約10,000円 | 約5,000円 | 施設では一部込みのところもあり |
医療費(通院・薬代) | 約7,000円 | 約7,000円 | 高齢者の自己負担 1割で想定 |
食費・日用品 | 約30,000円 | 約30,000円 | 施設費用に含まれていることもある |
住宅改修・交通費 | 約5,000円 | – | 通院・送迎・手すり設置等 |
施設費用(家賃・管理費) | – | 約100,000円 | 介護付き有料老人ホームの場合 |
月額合計 | 約92,000円 | 約142,000円 | |
年間合計 | 約110万円 | 約170万円 | 想定外支出は別途発生の可能性あり |
● ポイント解説
- 在宅介護は一見安く見えますが、介護者の労力・離職リスクを考えると精神的・経済的負担は軽くありません。
- 施設介護は費用は高めですが、介護の「外注」によって仕事や生活を維持しやすくなる利点もあります。
- どちらも自己負担がゼロになることはないため、長期戦を見据えた計画が不可欠です。
● メッセージ
介護破産は、無理を重ねた結果として「気づけば陥っていた」というケースがほとんどです。
がんばることと、ひとりで抱え込むことは違います。
少しでも「辛い」と思ったら、地域包括支援センターや医療・福祉の専門家に相談してみてください。
介護破産を防ぐためにできる5つの備え

介護費用の「見える化」
ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、かかる費用を事前に把握しておくことが重要です。
介護度別の費用目安(月額)
介護度 | 自宅介護:自己負担目安 | 施設介護:自己負担目安 | 主な内容 |
---|---|---|---|
要支援1・2 | 約5,000〜15,000円 | 約100,000円〜 | デイサービス中心 軽度の支援 |
要介護1 | 約15,000〜25,000円 | 約110,000円〜 | ヘルパー、通所介護が中心 |
要介護3 | 約30,000〜50,000円 | 約130,000円〜 | 日常生活にかなりの援助が必要 |
要介護5(最重度) | 約60,000円以上 | 約150,000円〜 | 24時間体制の支援が必要施設利用率が高まる |
※自己負担割合1割で計算。実費や医療費・おむつ代などは別途発生します。
収入に対する介護費用の負担率(年単位)
年収(世帯) | 在宅介護費 (要介護3) | 年間負担率 | 施設介護費 (要介護3) | 年間負担率 |
---|---|---|---|---|
400万円(中所得層) | 約50万円 | 12.5% | 約170万円 | 42.5% |
300万円(低所得層) | 約50万円 | 16.7% | 約170万円 | 56.7% |
200万円(年金世帯) | 約50万円 | 25.0% | 約170万円 | 85.0% |
※介護費以外に生活費が必要であることを考えると、年収300万円未満では介護費が家計を圧迫するレベルになることがわかります。
● 解説
- 要介護度が上がるにつれて、在宅でも施設でも費用は大幅に増加。
- 介護が長期化すると、中間層でも経済的余裕が失われやすい。
- 特に施設利用時は、年収の半分近くが介護費用に消える世帯もあります。
◆ 対策のヒント
- 【早期相談】要介護認定の申請は早めに行い、必要な支援を最大限使う。
- 【家族連携】兄弟姉妹で費用・役割分担を事前に話し合っておく。
- 【公的支援活用】高額介護サービス費や住民税非課税世帯の減免制度も確認。
介護保険制度を正しく活用
自己負担は原則1〜3割ですが、制度を使い切れていない家庭も多いです。
ショートステイやデイサービスなども積極的に検討を。
金融資産・保険の見直し
親の年金・資産状況の確認とともに、自分たちの家計も点検。
介護保険や医療保険の見直しも有効です。
介護離職を避けるための工夫
職場に相談し、時短勤務や在宅勤務、介護休業制度を活用しましょう。
家族での早めの話し合い
「親の介護」「費用は誰が出す?」など、話しにくいテーマだからこそ早めに。
兄弟姉妹間の連携もポイントです。
公的支援制度を知る・活用する
知っているかどうかで大きな差が出る制度があります。
- 高額介護サービス費制度
自己負担の上限額を超えた分が戻ってくる制度。
年収に応じて上限額が設定されています。 - 医療費控除や介護保険控除
確定申告での節税につながるケースも。 - 地域包括支援センター
介護に関するあらゆる相談に無料で対応してくれる窓口。
制度名 | 内容 | 利用条件・ポイント |
---|---|---|
介護保険制度 | 要介護認定を受ければ、自己負担1~3割で利用可 | 65歳以上(または40歳以上で対象疾患) |
高額介護サービス費制度 | 月額上限を超えた自己負担分が戻る制度 | 所得区分ごとに上限が異なる |
医療費控除・介護保険控除 | 一定額以上の医療・介護費用は税控除の対象に | 確定申告が必要 |
地域包括支援センター | 介護に関する相談・制度案内を無料で実施 | 全国各地に設置。誰でも利用可能 |
最後に:介護とお金の話を「タブー」にしない社会へ

介護とお金の問題は、恥ずかしいことではありません。
むしろ、事前に向き合うことで「守れる生活」があります。
ひとりで抱え込まず、制度や支援を活用しながら、家族とも本音で話し合うこと。
それが、「介護破産」を防ぐ第一歩です。
- 介護破産は誰にでも起こりうる現実です。
- 介護費用の可視化、支援制度の活用、家族での話し合いがカギです。
- 「お金が理由で介護ができない」未来を避けるために、今こそ準備を始めましょう。