「がん死の特権」という言葉をご存じでしょうか。
がんは一般的に「恐怖」「不安」の象徴とされますが、1000人以上のがん患者を看取った神奈川県立がんセンター元泌尿器科部長・三浦猛さん(3年前に悪性リンパ腫を発症)は、「がん死には特権がある」と語ります。
それは、がんを通じて「命の有限性」に気づき、残された時間やお金を有意義に使い、家族との関係をより深めることができるという気づきです。
この記事では、医師でありがん患者でもある三浦さんの体験談をもとに、「がん死の特権」の意味と、人生や家族、お金の使い方に与える影響を紐解きます。
がんとの出会い ― 医師から患者へ
「外来診療の際に聴診器に違和感があり、首を触ったら右側にしこりがありました。
超音波検査で悪性のリンパ腫と診断されました。」
そう語るのは、神奈川県立がんセンターで長年泌尿器科部長を務め、1000人以上のがん患者を看取った三浦猛さん。
3年前、自らががん患者となり、「死」を現実的なものとして意識せざるを得なくなったといいます。
「治療はできましたが完治ではなく、再発すれば余命2年と診断されています。
がんになること自体が免疫力低下のサインですから、簡単には治らないとわかっています。
それでも、死を身近に感じたことで“がん死の特権”があると気づいたのです。」
「がん死の特権」とは ― 最大の特権は「切り替え」
三浦さんが語る最大の特権は、気持ちを切り替えられることです。
「年をとってがんになると、先が見えるので多少悪化しても無理に病院で頑張る必要がなく、“しょうがない”と気持ちを切り替えられるのです。
その分、やりたいことや楽しいことに向かえる。
でも、ほかの病気は“助かるかもしれない”と入退院を繰り返し、結果的に状態が悪くなるケースも少なくない。
そこが大きな違いです。」
がん死と他の死に方の違い ― 比較表で見る特性
「がん死の特権」を理解するには、老衰や他疾患での最期と比べるとわかりやすいでしょう。
| 項目 | がん死 | 老衰・認知症 | 心疾患・脳卒中など急性疾患 |
|---|---|---|---|
| 死の予測性 | 余命が比較的予測しやすく、覚悟ができる | 長期化しやすく、予測が難しい | 突発的で準備ができないことが多い |
| 本人の生活 | 死の3か月前まで歩行可能、2週間前まで会話可能なケース多数 | 長期介護が必要、認知症で意思疎通が困難になることも | 急変による生活の断絶 |
| 家族の負担 | 短期集中で介護・看取りが可能 | 長期間の介護負担が大きい | 突然死の場合、心の準備ができず精神的ショックが大きい |
| 最期の場所の選択 | 在宅・病院・ホスピスなど本人の希望を選びやすい | ホスピス利用不可の場合あり | 急変で救急搬送、希望通りにならないことが多い |
| 心理的特徴 | 死を受け入れやすく、「やりたいこと」に切り替え可能 | 徐々に衰弱し希望を持ちにくい | 「なぜ突然…」という喪失感が残りやすい |
このように、「がん死」は他の死に方と比べ、本人と家族が準備をしやすく、穏やかな最期につながりやすい点が“特権”といえるのです。
お金の使い方を変える ― 「老後資金」から「今を豊かに」
がんを経験したことで、三浦さんの「お金に対する考え方」も大きく変わりました。
「がんになる前は、90歳まで生きる前提で老後資金を貯めていました。
けれど死を意識すると老後不安が消え、どう有意義にお金を使うかを考えるようになったのです。
いまは“全額使い切る”つもりで、寄付やクラウドファンディングへの支援を前向きにしています。」
がんをきっかけに「貯め込む」から「活かす」へ。
命が有限だとわかるからこそ、本当に意味のあることにお金を使えるようになる。
これも「がん死の特権」の一部です。
穏やかな最期の鍵は「家族との関係」
三浦さんはこれまで多くの患者を看取ってきました。
その中で強く感じたのは、最期の迎え方を左右するのは家族との関係だということです。
「私が看取った半分の方は在宅で静かに最期を迎えました。
そうした方々は家族関係が良好で、本人の意思を尊重して協力していました。
一方、家族関係が悪いと本人が望まない延命治療に進んでしまうケースもあります。
がんになって理想の最期を迎えるには、日頃から家族とよく話し合うことが欠かせません。」
がんは家族にとっても試練ですが、同時に「感謝や本音を伝える時間」を与えてくれる機会でもあります。
「がん死の特権」が教えてくれること
三浦さんは振り返ります。
「70代あたりでがんを患い、余生を考えながら元気なうちに有意義な時間を過ごせるなら、それは最高でしょう。」
がんは決して望ましい病ではありません。
しかし、「がん死の特権」という視点を持つことで、がんは「生き方を見直すチャンス」にもなり得ます。
まとめ

- がん死の特権とは
- 命の有限性を実感できる
- 気持ちを切り替えやすい
- お金を「貯める」から「活かす」へシフトできる
- 家族との関係を深め、穏やかな最期を迎えやすい
- 命の有限性を実感できる
「がん死の特権」という言葉は、がん患者だけでなく、今を生きるすべての人に「人生をどう生きるか」を問いかけています。
命は有限。
だからこそ時間もお金も、人との関係も、後悔のないように大切にしたい。
三浦さんの言葉は、私たちにそのことを強く教えてくれます。




