介護が始まると、多くの家庭で現実となるのが「老老介護」です。
高齢の配偶者が高齢の配偶者を支える、あるいは兄弟姉妹同士が介護を担う状況は、今や特別なケースではありません。
当初は「夫婦だから」「家族だから」と自然に引き受けた介護でも、体力や気力の低下とともに負担は確実に積み重なります。
そして気づかないうちに、介護する側・される側の双方が限界を迎え、共倒れという最も避けたい事態に陥ることも少なくありません。
シリーズ最終回となる本記事では、老老介護の現実とリスクを整理しながら、家族が早い段階でできる対策、限界を迎える前に知っておきたい支援の使い方について解説します。
老老介護とは何か|なぜ増えているのか

老老介護は「高齢者同士の介護」という言葉で簡単に表されますが、その内実は非常に複雑です。
介護する側も、すでに体力・判断力・経済力に制約を抱えているケースが多く、一般的な介護以上にリスクが高い点が特徴です。
老老介護が増えている理由として、以下の点も見逃せません。
- 要介護状態になる年齢が後ろ倒しになり、介護期間が長期化している
- 認知症の増加により、見守り・判断支援が必要なケースが増えている
- 介護を担う子世代も仕事や子育てを抱え、すぐに関われない家庭が多い
こうした背景から、夫婦二人だけで介護を続ける「閉じた介護環境」が生まれやすくなっています。
老老介護とは、主に65歳以上の高齢者が、同じく高齢の家族を介護する状態を指します。
背景には、
- 高齢化の進行と平均寿命の延び
- 核家族化・子どもの遠方居住
- 「自宅で最期まで」という価値観の広がり
といった社会的要因があります。
一見すると「家族の支え合い」に見える老老介護ですが、介護者自身も持病や体力低下を抱えていることが多く、非常にリスクの高い介護形態であることを理解しておく必要があります。
老老介護が抱える主なリスク
老老介護のリスクは、単に「大変」という言葉では表しきれません。
身体・精神・生活全体に影響が及び、気づかないうちに取り返しのつかない状況へ進行することがあります。
介護者の身体的限界
高齢者にとって、移乗・排せつ介助・夜間対応は大きな負担です。
無理を重ねることで、腰痛や転倒、持病の悪化につながり、介護者自身が要介護状態になるケースもあります。
精神的ストレスと孤立
老老介護では、介護者が社会との接点を失いやすくなります。
外出や人付き合いが減り、「介護のある生活」だけが日常になると、視野が狭まり、精神的な余裕が奪われていきます。
また、高齢世代ほど「人に迷惑をかけてはいけない」「家のことは家族で」という価値観が強く、支援を拒んでしまう傾向があります。
その結果、問題が表面化したときにはすでに深刻化している、というケースも少なくありません。
「自分がやらなければ」という責任感が強いほど、相談や助けを求めにくくなります。
孤立感が深まり、うつ状態に陥る危険性も否定できません。
介護の質の低下
疲労やストレスが蓄積すると、本人への対応が荒くなったり、必要なケアが行き届かなくなったりすることがあります。
これは決して本人の意思の弱さではなく、環境の問題です。
「まだ大丈夫」が一番危ない
老老介護で最も多い後悔は、「もっと早く相談すればよかった」という声です。
体調が安定しているうちは何とか回っていても、加齢による変化は突然訪れます。
特に注意したいのは、
- 介護者自身の受診や通院を後回しにしている
- 夜間の転倒や徘徊など、小さなトラブルが増えている
- 家の中での事故が起きても『仕方ない』で済ませている
こうしたサインを見逃さず、「まだ大丈夫な今だからこそ」動くことが、共倒れを防ぐ最大のポイントです。
老老介護では、「今は何とかできている」「もう少し頑張れる」という判断が、かえって状況を悪化させることがあります。
- 介護者が倒れてから初めて支援を探す
- 急な入院や施設入所で選択肢が限られる
- 家族関係が悪化する
こうした事態を防ぐためには、余力があるうちに手を打つことが何より重要です。
共倒れを防ぐために家族ができること
老老介護を続けるうえで重要なのは、介護の負担をゼロにすることではなく、「危険な状態まで抱え込まない仕組み」をつくることです。
介護の中心者を一人にしない
第3回で解説したように、介護の中心者を決めることと、抱え込ませないことは別問題です。
役割分担を明確にし、定期的に負担を見直しましょう。
介護保険サービスを「遠慮なく」使う
介護保険サービスは、要介護者のためだけでなく、介護者を守るための制度でもあります。特に老老介護では、以下のサービスが重要な役割を果たします。
- デイサービス:日中の見守りと生活リズムの維持
- 訪問介護:身体介助の負担軽減
- ショートステイ:介護者の休養・体調回復
「使いすぎではないか」と不安に思う必要はありません。
介護者が倒れてしまえば、本人の生活も一気に崩れてしまうからです。
デイサービス、訪問介護、ショートステイは、介護を続けるための支援です。
「甘え」ではありません。介護者が休むことは、長期的に見て本人のためにもなります。
家族以外の目を入れる
ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談することで、第三者の視点から状況を整理できます。
早めの相談が、選択肢を広げます。
老老介護から次の段階へ進むサイン
老老介護は、ある日突然限界を迎えるわけではありません。
必ずその前に、小さな変化や違和感が現れます。
次のような変化が見られたら、支援の見直しが必要です。
- 介護者の体調不良が増えている
- 夜間対応が頻繁になっている
- 介護への不満やイライラが増えている
- 一人での外出や休息が取れていない
「限界を感じてから」ではなく、「兆しの段階」で動くことが重要です。
在宅介護にこだわりすぎないという選択
「住み慣れた家で最期まで」という思いは尊重されるべきですが、それが介護者の健康や安全を脅かしてまで守るべきものかは、冷静に考える必要があります。
在宅・施設は二者択一ではありません。
- 在宅+デイサービス
- 在宅+ショートステイ
- 一時的な施設入所
こうした柔軟な組み合わせによって、老老介護の負担を大きく減らせる場合があります。
在宅介護は素晴らしい選択肢ですが、すべての家庭に適しているわけではありません。第4回・派生記事で紹介したように、施設介護や短期入所を組み合わせることで、介護者と本人の安全が守られるケースも多くあります。
介護の形を変えることは、諦めではなく調整です。
専門職と一緒に考える介護
老老介護の問題は、家族だけで解決するものではありません。
- 地域包括支援センター
- ケアマネジャー
- 医療機関
これらの専門職と連携することで、現実的で持続可能な介護体制が見えてきます。
シリーズ最終回として|介護は「一人で背負わない」ことが大切
本シリーズでは、介護を『始まってから考えるもの』ではなく、『備えておくもの』としてお伝えしてきました。
老老介護は、決して特別な家庭だけの問題ではありません。
誰の身にも起こり得るからこそ、
- 話し合いを先延ばしにしない
- 支援制度を知っておく
- 限界を感じる前に助けを借りる
この3点を意識することが、後悔しない介護につながります。
介護は愛情だけでは続きません。
人と制度を上手に頼りながら、「続けられる形」を選ぶことが、本人と家族の両方を守ることにつながります。
全5回にわたりお伝えしてきた通り、介護で最も大切なのは「早めに知り、早めに話し合い、早めに支援につなぐ」ことです。
老老介護は、誰の家庭にも起こり得ます。
だからこそ、一人で抱え込まず、家族と社会の力を借りながら、無理のない形を選んでください。



