親が高齢になり、介護が必要になったとき、「一緒に住むのが親孝行だろう」と思う人は多いのではないでしょうか。
たしかに同居すれば、すぐに手を差し伸べられ、親の寂しさも軽減できるかもしれません。
しかし、親自身は同居を望んでいないというケースも少なくありません。
「親のために」と思って始めた同居が、実は本人にとってストレスになっていた。
そんな話も現場ではよく耳にします。
介護が必要になったとき、本当に大切なのは「本人が暮らしたい場所」で生活できること。
この記事では、同居が親孝行なのか?という視点から、高齢者の本音や介護の選択について考えていきます。
親の介護=同居が本当に“親孝行”なのか?
「親に何かあったらすぐ駆けつけられる」「一人暮らしは寂しいのでは」
こうした思いから、同居を提案する子ども世代は少なくありません。
たしかに、同居には安心感やサポートのしやすさというメリットがあります。
しかしそれが「親の希望に沿ったものかどうか」は、また別の話です。
高齢の親が望むのは、自分らしい暮らしを最後まで続けることであり、必ずしも子どもとの同居ではありません。
「親のため」と思って選んだ同居が、実は本人の意思に反することだった、というケースもあります。
同居を望んでいない親は意外と多い
「うちの親は一人暮らしが寂しいはず」と思っていませんか?
実際には、子どもとの同居を望んでいない高齢者は非常に多いのが現実です。
主な理由としては以下のようなものが挙げられます。
- 子どもに迷惑をかけたくない
- この年で生活環境を大きく変えたくない
- 気を使いながら暮らすのはしんどい
- 自分の生活ペースを守りたい
- 長年住み慣れた家から離れたくない
特に長く暮らした持ち家(一軒家)に対しては、強い愛着や誇りを持っている方が多いです。
「自分が建てた家」「家族を守ってきた場所」であり、そこでの暮らしに意味を感じている方も少なくありません。
本人が暮らしたい場所で過ごすことの大切さ
高齢期をどう過ごすかは、「自分らしさ」を守ることと深く関係しています。
長年暮らした家や土地、慣れ親しんだ環境の中で過ごすことは、精神的な安定にもつながります。
特に認知症のリスクがある方にとっては、住み慣れた環境が混乱を防ぐ手助けになることもあります。
介護が必要になったからといって、環境を大きく変えることが必ずしも良いとは限りません。
「どこで、どんな風に暮らしたいか」を丁寧に確認し、本人の意志を尊重することが大切です。
家族の「安心」と本人の「自由」のバランスをどう取るか
もちろん、家族側にも「安全に暮らしてほしい」「すぐに対応できる距離にいてほしい」という気持ちはあるでしょう。
しかし、それが本人の人生の質(QOL)を下げる結果になるのでは意味がありません。
最近では、見守りカメラや通報センサーなどのテクノロジーを活用した在宅支援も充実してきています。
また、定期的な訪問介護や地域包括支援センターのサポートを活用すれば、同居せずとも安心した生活は可能です。
「同居しかない」ではなく、「どんな選択肢があるか」を家族で考えることが、より良い介護につながります。
親の望む暮らしを大切にすることが、何よりの親孝行

親孝行とは、「一緒に住むこと」ではなく、親の希望に寄り添うことです。
子どもがどれだけ「親のため」と思っていても、本人が望んでいないのであれば、逆に負担になってしまうこともあります。
高齢者にとって、「自分がどこでどう暮らすか」は、人生の最後の選択のひとつ。
その選択に尊厳と自由があることは、心の安定と幸福感に直結します。
介護が必要になったときこそ、「一緒に住む?それとも、住み慣れた家で暮らす?」と話し合い、本人の意思を中心に据えた選択をしていきましょう。
それが、後悔のない介護、そして本当の親孝行につながっていくはずです。
親との同居と施設利用、それぞれのメリット・デメリット
親の介護が必要になったとき、多くの人が悩むのが「自宅での介護(同居)」か「施設を利用するか」という選択です。
それぞれの選択には、メリットとデメリットがあります。
■同居介護のメリット
- 親の様子を常に近くで見守れる
- 突発的な体調変化にもすぐ対応できる
- 精神的なつながりや安心感が得られる
- 外部サービスを組み合わせて在宅介護が可能
■同居介護のデメリット
- 介護者の負担が大きくなりやすい(介護離職や共倒れのリスク)
- 介護にかかる時間・体力・精神的ストレス
- 同居により親子双方の生活リズムやプライバシーが崩れやすい
- 子ども世帯(配偶者や孫など)との摩擦が起きる可能性も
■施設利用のメリット
- 専門職による24時間のケアが受けられる
- 食事や入浴、排せつなど基本的ケアが整っている
- 家族の介護負担が大きく軽減される
- レクリエーションや他の入居者との交流ができる
■施設利用のデメリット
- 月額費用が高くなる傾向(特に民間の有料老人ホーム)
- 家族との距離ができ、寂しさを感じやすい
- 入居者本人の生活リズムが施設に合わせられることに抵抗を持つことも
- 人気施設は空きが少なく、入所待ちが発生する場合も
どちらが正解ではない。大切なのは「本人の希望」と「家族の継続可能性」
同居も施設利用も、どちらが“正解”というわけではありません。
重要なのは、親本人の希望をしっかり確認すること、そして家族が無理なく継続できる形を選ぶことです。
たとえば、「なるべく自宅で暮らしたい」という親の希望がある場合は、訪問介護やデイサービスを活用して在宅介護を支える体制を検討しましょう。
一方で、介護度が高くなり在宅では難しいと感じる場合には、施設という選択肢が現実的かもしれません。
介護は長期戦です。無理をして始めた同居や在宅介護が、家族全体の疲弊を招いてしまっては、本末転倒です。
まとめ:選択に迷ったときは専門家の力も借りよう

「親の希望も尊重したいけれど、どうするのが最適か分からない…」というときには、地域包括支援センターやケアマネジャーなど、介護の専門家に相談することも大切です。
介護保険サービスには、
- 居宅介護支援
- ショートステイ
- グループホーム
- 特別養護老人ホーム(特養)
などさまざまな種類があります。
同居と施設利用を二択で考えるのではなく、間にある柔軟なサービスを組み合わせることで、本人にも家族にも優しい介護を実現することが可能です。