年齢を重ねると「最近つまずきやすくなった」「階段がしんどい」といった体の変化を感じる方が増えてきます。
その原因のひとつが、筋肉の減少。
特に高齢者では、筋力の低下が転倒や寝たきりにつながることもあり健康寿命を左右する大きなポイントです。
筋肉を維持するには、日々の食事がとても重要。
なかでも、筋肉の材料となるBCAA(分岐鎖アミノ酸)という栄養素が注目されています。
この記事では、サプリメントに頼らず、普段の食事の中で無理なくBCAAを摂る方法をご紹介します。
「何を食べれば筋肉が守れるのか?」――そのヒントを、わかりやすく解説していきます。
高齢者になぜ“筋肉”が重要なのか?
年齢を重ねると、自然と筋肉が落ちていきます。
これは「サルコペニア」とも呼ばれ、筋力の低下により転倒や骨折、最悪の場合は寝たきりのリスクが高まります。
特に高齢者では、「立つ」「歩く」「食べる」など、日常のあらゆる動作に筋力が必要です。
筋肉は、体の動きだけでなく、健康寿命そのものを左右するといっても過言ではありません。
食事から筋肉を守る!注目される「BCAA」とは?
筋肉の材料といえば「たんぱく質」が思い浮かびますが、実はその中でも特に大切なのがBCAA(分岐鎖アミノ酸)と呼ばれる成分です。
BCAAは、「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」という3つのアミノ酸のことで、筋肉の合成や回復に直接関わる役割を持っています。
バリンは、体の中の窒素のバランスを整えながら、筋肉の分解を防ぎ、成長をサポートする働きがあります。
また、「アルブミン」という主に肝臓で作られるたんぱく質を増やし、肝機能をサポートする働きもあります。
ロイシンは、BCAAのなかでも“司令塔”のような存在です。
体の中で、筋肉を作る働きを促したり、筋肉を分解しすぎないようブレーキをかけたりして、筋肉をちょうどいいバランスで保つ働きをします。
さらに、運動とあわせてロイシンをとることで、体の中で「筋肉を作りなさい」という指令を出す“エムトール”という物質が活発になります。
また、弱った肝臓をいたわり、肝機能の向上を促す働きもあります。
イソロイシンは、体の新陳代謝を支える「甲状腺ホルモン」の働きを助け、筋肉の成長を促す役割があります。
そして、糖質を運動時のエネルギー源になる“グリコーゲン”という形で体に貯めておくよう促してくれるため、スタミナを保ち、疲れにくい体を作るのにも効果的です。
また血管を広げ、柔らかくして、血流をよくし、筋肉も強くします。
さらに、脳からの指令と体の動きとをつなげるサポートをすることで、判断力や反射速度などを向上させます。
若い人に比べて、高齢者は筋肉の合成が進みにくい傾向があります。
そのため、日頃の食事からBCAAをしっかりと摂ることが、筋肉の維持にとって非常に重要です。
BCAAが多く含まれる食べ物とは?|具体例
BCAAはサプリメントからも摂取できますが、実は身近な食べ物にも多く含まれています。
以下のような食品がBCAAを多く含み、筋肉維持に役立ちます。
肉類
- 鶏むね肉(皮なし)
- 豚ヒレ肉
- 牛赤身肉
筋肉の材料になるたんぱく質が豊富で、BCAAの含有量も多い食品です。
鶏むね肉は特にロイシンを多く含みます。
魚介類
- マグロ
- カツオ
- 鮭(サケ)
魚にもBCAAが多く含まれており、消化もしやすいので高齢者におすすめです。
大豆製品
- 納豆
- 豆腐
- 厚揚げ
植物性たんぱく質もBCAAを含みます。特に納豆や厚揚げは手軽で調理も簡単です。
卵・乳製品
- 卵
- チーズ
- ヨーグルト
朝食や間食に取り入れやすく、毎日の食事で無理なく続けられる食材です。
主な食品のBCAA含有量(100gあたり・目安)
食品名 | ロイシン (mg) | バリン (mg) | イソロイシン (mg) | 合計BCAA量 (mg) |
---|---|---|---|---|
鶏むね肉 | 1,800 | 1,100 | 1,100 | 4,000 |
マグロ(赤身) | 2,000 | 1,400 | 1,200 | 4,600 |
鮭(しろさけ) | 1,700 | 1,200 | 1,000 | 3,900 |
豚ヒレ肉 | 1,700 | 1,100 | 1,000 | 3,800 |
納豆 | 1,300 | 850 | 790 | 2,940 |
豆腐(木綿) | 600 | 360 | 350 | 1,310 |
卵(全卵) | 550 | 410 | 330 | 1,290 |
チーズ(プロセス) | 460 | 320 | 240 | 1,020 |
ヨーグルト(無糖) | 350 | 240 | 200 | 790 |
※出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
補足:BCAAは「たんぱく質が豊富な食品」に多く含まれます。
高齢者は特に、吸収されやすく、やわらかい調理法と合わせて摂取するのがおすすめです。
高齢者におすすめ!BCAA豊富な食事のとり方

高齢者にとって大切なのは、「量より質」。
食が細くなってきた方でも、少量でしっかりBCAAを摂れる工夫が重要です。
食べ方のポイント
- 3食+軽食(間食)でこまめにとる
- やわらかく調理して、飲み込みやすくする
- 1食に1つは「BCAA食品」を意識して入れる
例:BCAAをとりやすい献立
- 鮭と豆腐のあんかけ煮
- 納豆と卵のやわらか炒め
- 鶏むね肉と野菜の煮物
- カツオのたたき丼(ごはん少なめ)
1日の食事に取り入れやすいBCAA食品(モデル献立)
食事 | メニュー例 | 主なBCAA食材 |
---|---|---|
朝食 | 納豆ごはん、卵焼き、ヨーグルト | 納豆、卵、ヨーグルト |
昼食 | 鮭の塩焼き、豆腐とわかめの味噌汁、ご飯 | 鮭、豆腐 |
おやつ(間食) | バナナ+チーズ | チーズ |
夕食 | 鶏むね肉の煮物、ほうれん草のおひたし、ご飯 | 鶏むね肉 |
POINT:1食に1〜2品、BCAA食品を意識するだけで十分。
無理なく毎日の中に取り入れられます。
食事+運動が筋肉維持のカギ

BCAA豊富な食事をとっていても、体をまったく動かさない生活では、筋肉は増えません。
「食べて、動く」ことがセットで大切です。
たとえば、
- 食後の軽い散歩
- 椅子に座ってできる足上げ運動
- お風呂上がりのストレッチ
こうした軽い運動でも、BCAAが筋肉づくりに活かされやすくなります。
筋肉づくりのために意識したい「食事+運動」ルーティン
時間帯 | 食事(BCAA食品) | 運動(軽めでOK) |
---|---|---|
朝(7〜9時) | 納豆ごはん+卵焼き | 椅子に座って足の上げ下ろし10回 |
昼(12〜14時) | 魚の煮付け+味噌汁 | 昼食後に5〜10分の室内歩行 |
夕方(17〜19時) | 鶏むね肉の野菜炒め+ご飯 | 食後に台所でかかと上げ体操5分 |
続けやすいのが一番!運動は5分でもOK。
「食べる→動く」で筋肉に栄養が届きやすくなります。
まとめ:高齢者の筋肉づくりは、毎日の食事から

高齢者の健康寿命を延ばすには、筋肉を減らさないことが何より大切です。
そのために、BCAAを意識した食事を毎日取り入れていくことは、サプリに頼らなくても十分に実践できます。
「食べて、動いて、元気に過ごす」——それは毎日の食事から始まります。