認知症の介護では、日々さまざまな行動や症状に向き合う必要があります。
その中でも、家族や介護者を悩ませる行動のひとつが「過食」です。
「さっき食べたばかりなのに、また食べたいと言う」「止めようとすると怒り出す」
そんな場面に戸惑った経験はありませんか?
過食の背景には、認知症特有の脳の変化があります。
しかし、対応の仕方次第で症状がやわらいだり、介護の負担が軽くなったりすることもあります。
この記事では、認知症による過食の原因と適切な対応方法、そして介護現場で実践できる工夫について解説します。
認知症と過食:なぜ「満腹」を感じられないのか?
認知症の方に見られる「過食」には、いくつかの要因があります。
代表的なのは、満腹中枢の機能低下です。
脳の働きが衰えることで、「満腹になった」という感覚を正しく得られなくなるのです。
また、食事をした記憶が曖昧になり、「まだ食べていない」と感じてしまうこともあります。
食べたことをすぐに忘れてしまうため、繰り返し食べ物を要求することがあるのです。
このような行動に対して、「さっき食べたばかりでしょ」と叱ったり否定したりすると、本人は混乱し、かえって不安や怒りが強まってしまいます。
大切なのは「安心感」——反応よりも環境づくりを

過食の対応で何よりも大切なのは、本人に安心感を与えることです。
「いつでも食べさせてもらえる」「自分の気持ちを受け入れてもらえる」と感じられる環境があれば、過食の訴えが次第に落ち着いてくることもあります。
「また言っている」と突き放すのではなく、気持ちに寄り添った対応が求められます。
一方で、実際に何度も食事を繰り返すことは、健康面での心配もつきもの。
そんなときは、1回の食事量を本人が気づかない程度に減らす工夫が効果的です。
食事の合間に、おやつや果物を少しずつ小出しにして、空腹感を和らげましょう。
食べ物以外に意識を向ける工夫も
人は退屈なときほど、「食べること」に意識が向きがちです。
これは認知症の方も同じ。
過食の背景には、「やることがない」「誰にも相手にされていない」という孤独感や退屈感が潜んでいることも少なくありません。
そこでおすすめなのが、夢中になれる活動を見つけてあげることです。たとえば、
- 好きだった趣味や手作業(折り紙、塗り絵、簡単な家事など)
- 音楽やテレビ鑑賞
- 一緒にお散歩やお茶の時間を楽しむ
など、本人の好みに合わせた「楽しい時間」を日常に取り入れてみましょう。
気分が明るくなれば、食べ物への執着も次第に薄れる可能性があります。

過食を「悪いこと」と決めつけない
介護する側にとってはつらい場面も多い過食ですが、見方を変えれば、「よく食べる=体力がある証拠」ともいえます。
高齢になると、病気や入院によって一気に体力が落ちてしまうことがあります。
そうしたとき、「普段からよく食べている人」は回復も早い傾向があります。
もちろん、肥満や糖尿病のリスクに注意は必要ですが、少しくらい多めに食べていても、それが安心や生活の質につながるのであれば、大目に見てあげるという選択肢もあります。

まとめ:過食の背景にある「心」に寄り添って
認知症の過食は、本人の意志や性格の問題ではなく、脳の機能低下や不安感、退屈さなどが絡み合って生じるものです。
だからこそ、無理に止めようとするのではなく、本人の心をやわらげる工夫や、環境を整えることが大切です。
過食に見える行動の裏には、「満たされない思い」があることを忘れずに、やさしく寄り添いましょう。
介護の現場では、完璧を目指すのではなく、「ちょっと工夫して、うまくいけばラッキー」くらいの気持ちがちょうどいいのかもしれません。
家族も介護者も、無理なく、笑顔で向き合える毎日を目指していきましょう。