「老後は年金でゆったり過ごせる」と思っていたものの、実際に年金生活が近づくと多くの人が不安を感じています。
厚生労働省のデータによれば、2023年度時点で国民年金の平均受給額は月5万7,584円、厚生年金(基礎年金含む)でも月14万6,429円にとどまっています。
2025年度は物価上昇を反映して国民年金(満額)が月額69,308円、厚生年金のモデル世帯(会社員の夫・専業主婦の妻)は月額232,784円に引き上げられたものの、家賃や食費、医療費、光熱費などを考えると、「年金だけで暮らす」のは依然として難しい現実です。
この記事では、熟年離婚、遺族年金、独身といった立場ごとのリアルな声を交え、「年金だけでは生活できない」という現実に共感しながら、読者のあなたに必要な備えと支援策をお伝えします。
熟年離婚の男性|年金分割で老後資金が減るリスクとは

「定年後は妻とゆっくり旅行でも…そう思っていたのに、60代を前に離婚され、年金分割で自分の受け取れる額は大幅に減ってしまった。」
そんな男性の声が増えています。
熟年離婚では年金分割制度により、厚生年金の最大1/2までを分割されるため、男性の受給額は大きく減少します。
熟年離婚は決して珍しいものではなく、退職をきっかけに長年の不満が爆発することも。
残された男性は、人間関係も希薄で、頼れる人がいないことが多いのです。
仕事を失い、社会との接点がなくなったとき、精神的な孤独はさらに深まります。
熟年離婚後の支援策
- 財産分与
離婚時には、夫婦が婚姻中に築いた共有財産を原則2分の1ずつ分け合う「財産分与」が認められています。
現金や預金、不動産、保険の解約返戻金などが対象となります。 - 年金分割
厚生年金の加入歴がある場合、婚姻期間中の厚生年金記録を分割できる制度があります。
これにより、専業主婦やパートタイムで働いていた配偶者も将来の年金額を増やすことができます。 - 就労支援(アルバイト・パート)
離婚後に生活費が不足する場合、年齢や健康状態に応じてアルバイトやパートなどで収入を補う選択肢もあります。 - 生活保護
生活費が著しく不足し、他に頼る先がない場合は、生活保護の申請が可能です。
資産や収入、家族からの支援の有無など一定の条件がありますが、最低限の生活を保障するセーフティネットです。 - 自治体・NPO等の生活支援制度
生活福祉資金貸付や医療費助成、地域包括支援センターによる相談支援、見守りサービスなど、自治体や民間団体による多様なサポートも活用できます。
遺族年金が少ない女性|高齢女性の生活苦と支援策

「夫が元気なうちは何とかやってこれた。でも、遺族年金だけでは、生活が苦しくて…。」
長年、専業主婦やパートとして家庭を支えてきた女性たちが、夫の死後に直面するのは、少ない遺族年金と医療費・介護費用の負担です。
パートや内職で生活費を補おうとしても、高齢になれば働ける仕事は限られます。
「長年支えてきたのに、老後は孤独と貧しさ」。
この現実は、多くの高齢女性に共通する悩みです。
女性の厚生年金平均受給額は月10万7,200円と男性より大きく下回っており、非正規雇用や専業主婦期間が長いと、国民年金のみの受給となり月5万円台にとどまることも少なくありません。
高齢になってから働くことも難しく、医療費や介護費用の負担も重くのしかかります。
遺族年金受給者への支援策
- 遺族年金生活者支援給付金
遺族基礎年金の受給者で、一定の所得基準(前年の所得が472万1,000円+扶養人数×38万円以下など)を満たす場合、月額5,450円(2025年度基準)の給付金が支給されます。 - 生活保護・医療費助成
遺族年金や給付金だけで生活が困難な場合、生活保護や自治体の医療費助成制度の利用が可能です。 - 介護保険・地域包括ケアシステム
高齢者向けの介護サービスや生活支援は、介護保険制度や地域包括ケアシステムを通じて提供されています。
要介護認定を受けることで、ホームヘルプやデイサービスなどが利用できます。 - 成年後見制度・日常生活自立支援事業
認知症や判断能力の低下がある場合、成年後見制度や社会福祉協議会による日常生活自立支援事業などで、財産管理や生活支援を受けることができます。
独身高齢者の孤独と不安|老後の孤独死リスクを減らすには

「兄弟姉妹とも疎遠だし、友人も少ない。もし自分が倒れたら、誰が気づいてくれるのか…。」
独身の高齢者が抱えるのは、経済的不安に加えて、孤独と将来への恐怖です。
頼れる家族がいないため、万が一のときの相談先や支援先を自分で確保しておく必要があります。
誰にも気づかれずに孤独死するリスク、病気や事故で倒れたときの不安。
「自分には関係ない」と思っていた孤独が、現実味を帯びてくるのです。
孤独死リスクを減らすために今からできる準備
高齢化や単身世帯の増加により、孤独死のリスクは社会的な課題となっています。
今からできる具体的な備えは以下の通りです。
1. 地域コミュニティやグループ活動への参加
- 地域のサークル、趣味の会、ボランティア活動などに積極的に参加し、定期的に人と会話する機会を持つことで、孤独死リスクを大きく減らせます。
- こうした活動は新しい友人や生きがいを得るきっかけにもなり、孤独感の解消や生活の充実にもつながります。
2. 近所や親族とのつながりを保つ
- 近所の人と挨拶や日常的な会話を心がけることで、異変があった際に気づいてもらいやすくなります。
- 親族や友人と定期的に連絡を取り合う(電話、メール、LINEなど)ことも重要です。
3. 見守りサービスやテクノロジーの活用
- 自治体や民間企業が提供する見守りサービス(定期的な電話・メール・訪問、センサーによる安否確認など)を利用することで、万が一の際にも迅速な対応が期待できます。
- 見守り家電(電気ポットの使用状況通知など)やSNSの活用も有効です。
4. 配食サービスや介護サービスの利用
- 配食サービスを利用すると、毎日安否確認が行われるため、異変があればすぐに発見されやすくなります。
- 訪問介護やデイサービスなどの介護サービスも、定期的な見守りにつながります。
5. 健康管理と生活習慣の維持
- 定期的な運動やバランスの良い食事を心がけ、体調管理を徹底することも大切です。
- かかりつけ医を持ち、定期的に通院することで健康状態の変化に早く気づけます。
6. サービス付き高齢者住宅や介護施設の検討
- 一人暮らしが難しくなってきた場合は、サービス付き高齢者向け住宅や介護施設への入居も選択肢です。
これらの施設では安否確認や生活支援が受けられるため、孤独死のリスクが大きく下がります。
孤独死を防ぐには、社会との接点を積極的に持ち、周囲とつながることが最も効果的です。
自治体や民間のサービスも活用しながら、今からできることを一つずつ始めていくことが大切です。
なぜ年金だけでは暮らせないのか|老後破産を防ぐために知るべき現実
背景にはいくつもの要因があります
- 公的年金制度の限界(現役世代が減り、支える力が弱まっている)
- 長寿化で老後資金が想定以上に必要になる
- 非正規雇用・低年収の影響で、そもそも年金額が少ない
- 高齢単身世帯の増加
こうした社会構造の中では、「自助努力だけではどうにもならない」現実があります。
2025年には年金額の引き上げが実施されましたが、物価や生活費の上昇に追いつくには十分とは言えません。
今後も給付水準は徐々に低下する見通しであり、30年後には現在より2割低下するという予測もあります。
年金生活者が使える支援制度
年金生活者が利用できる代表的な支援制度として、「年金生活者支援給付金制度」があります。
これは、所得が一定基準以下の年金受給者を対象に、年金に上乗せして給付金が支給される制度です。
年金生活者支援給付金制度の概要
- 2019年10月、消費税率引き上げに伴い創設
- 所得が低い年金受給者の生活を支援する目的
- 年金に加算して給付金が支給される
支給対象と種類
年金生活者支援給付金には、以下の3つの種類があります。
給付金の種類 | 主な対象者 | 支給要件(主なもの) |
---|---|---|
老齢年金生活者支援給付金 | 老齢基礎年金受給者 | ・65歳以上 ・同一世帯全員が市町村民税非課税 ・前年の公的年金等収入+その他所得が基準以下 |
補足的老齢年金生活者支援給付金 | 老齢基礎年金受給者(所得が一定範囲内) | ・老齢年金生活者支援給付金の要件に準ずるが、所得が基準額を若干超える場合 |
障害年金生活者支援給付金 | 障害基礎年金受給者 | ・障害基礎年金受給者 ・前年の所得が4,721,000円以下 |
遺族年金生活者支援給付金 | 遺族基礎年金受給者 | ・遺族基礎年金受給者 ・前年の所得が4,721,000円以下 |
主な支給要件(2025年度時点)
老齢年金生活者支援給付金の要件
- 65歳以上で老齢基礎年金を受給
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等収入+その他所得の合計が基準額以下
- 例:昭和31年4月2日以後生まれの方は889,300円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は887,700円以下
障害・遺族年金生活者支援給付金の要件
- 障害基礎年金または遺族基礎年金の受給者
- 前年の所得が4,721,000円以下
支給額と支給方法
- 支給額は毎年度、物価変動により改定
- 支給日は偶数月の中旬(年金支給日と同じタイミングで2か月分まとめて振込)
- 年金とは別の名目で振込まれる
「支援は困窮者だけのものではない」という意識を持ち、早めに相談・情報収集することが大切です。
個人でできる備え
- 家計の見直し
- 持ち家の資産活用
- 地域とのつながり作り
- 任意加入や付加年金、iDeCo・NISAなどによる資産形成
まとめ|老後の不安を軽くするのは、孤立しない勇気と相談する力

年金だけでは生活できない現実は、決して他人事ではありません。
熟年離婚した男性も、遺族年金に苦しむ女性も、独身で将来が不安な人も。
それぞれが孤立せず、社会や支援を頼ることが、老後の不安を軽くするカギになります。
「誰かに相談する勇気」「地域とつながる勇気」を、今から少しずつ持ってみませんか?
あなたの老後は、あなた一人で抱えるものではないのです。
