「もしも自分や家族が突然の病気や事故に遭ったら、どんな治療を望むのか?」
「人生の最期を、どこで、どんなふうに過ごしたいか?」
これら問いは、介護や終末期医療の現場では避けて通れないものです。
アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning、ACP)は、本人と家族が事前に話し合い、最期のときに備えるプロセスです。
この記事では、介護の現場で重視されるACPの基本と、話し合いを始めるための具体的なポイントを解説します。
自分や家族が困らないために:ACPの役割
介護や終末期医療では、本人が意思を伝えられない状態になる場面が少なくありません。
例えば認知症の進行や、突然の脳卒中、交通事故。
そんなとき、家族は「本人ならどうしてほしいと思うだろう?」と悩むことになります。
しかし、事前に話し合いがされていないと、家族は迷い、後悔し、心の負担を抱えがちです。
ACPは、本人と家族が事前に意思を確認し合うことで、いざというとき家族が困らず、本人の希望を尊重できる仕組みです。
本人の希望を最優先にできることの大切さ
医療や介護の現場では、「本人の意思を尊重すること」が何より大事にされます。
しかし実際には、本人の希望がわからず、医療者や家族が判断に悩む場面が多いのが現実です。
延命治療を希望するか、どんなケアを重視するか、どこで過ごしたいか。
これらの問いは、推測で決めるものではありません。
元気なうちに本人と家族が話し合っておくことで、最期のときに「その人らしさ」を守ることができます。
人生の最期をどう過ごしたいか:自分自身への問い
「自分が病気で寝たきりになったとき、どうしたいか?」
「大切な人に何を伝えたいか?」
ACPは、単なる医療の選択肢ではなく、人生をどう生き、どう締めくくりたいかを考えるプロセスでもあります。
例えば
- 痛みを取る治療を優先したいのか
- なるべく自宅で過ごしたいのか
- 最後の時間を誰と一緒に過ごしたいのか
これらを家族と一緒に考えることは、介護に直面してからでは遅い場合が多いのです。
「まだ元気だから大丈夫」ではなく、今こそ考えるべきテーマといえます。
話し合いを始めるハードルを下げる工夫
最期の話題を持ち出すのは、誰にとっても簡単ではありません。
しかし、気負わず、日常会話の中で少しずつ話し合うことが大事です。
具体的な工夫としては
✅ 家族が集まったとき、「もし自分ならどうするだろう」と軽く話題にする
✅ ニュースやドラマの話をきっかけに、「私ならこうしたいな」と伝える
✅ 医師やケアマネジャーの助けを借りて、専門的な場で話し合う
こうしたアプローチなら、ACPが“重いテーマ”にならず、自然な会話の中で進められます。
70%の人が最期に意思表示できなくなる:だからこそ今から
厚生労働省によると、人生の最終段階で自分の意思を伝えられない人は約70%にのぼるといわれています。
これは、高齢者に限った話ではありません。
若い人でも、事故や急病で突然その立場になることがあります。
「自分はまだ元気だから話し合う必要はない」というのは誤解です。
ACPは、誰にとっても重要な備え。
今から少しずつ、家族と共有する時間をつくってみませんか?
今日からできるACPの一歩
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、本人の希望を大切にし、家族が後悔しないための準備です。
特別な知識や大がかりな準備が必要なわけではありません。
今日からできる小さな一歩。
例えば、「自分ならどうしたいか」を話題にすることから始めてみましょう。
その積み重ねが、介護や終末期医療の現場で大きな力になります。
実践編:ACPを進める具体的ステップと家族で使えるチェックリスト

✅ ACPの具体的なステップ解説
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は次の4つの流れで進めると分かりやすいです。
1️⃣ 自分自身の希望を整理する
- 自分はどんな価値観を大事にしてきたか
- どんな治療やケアを望むのか、逆に望まないのか
- 最期はどこで、誰と過ごしたいのか
まずは一人で考え、紙に書き出すのも良いです。
2️⃣ 家族や信頼できる人と話し合う
- 家族やパートナー、友人と一緒に話してみる
- 医療や介護の担当者(主治医、ケアマネジャーなど)がいれば相談する
話し合いは一度きりではなく、何度も見直すのがポイントです。
3️⃣ 内容を記録に残す(ACPノートを使う)
- 書類やノート、メモにまとめる
- 市販のACPノートやエンディングノートを活用してもOK
記録は家族や担当医と共有しておきます。
4️⃣ 定期的に見直す
- 状況や気持ちは変わることがある
- 定期的に「今の考えで合っているか」を見直し、更新していきましょう
✅ 家族で使えるACPチェックリスト
以下のチェック項目を家族で一緒に確認してみてください。
✅ 延命治療(人工呼吸器、胃ろう、心臓マッサージなど)について考えたことがある
✅ どこで最期を迎えたいか(自宅・施設・病院)の希望がある
✅ 苦痛を取る治療(緩和ケア)を優先したいかどうか考えている
✅ 家族や友人に伝えたいこと、伝えておきたいメッセージがある
✅ 信頼できる相談相手(家族、医療者、ケア担当者)が決まっている
✅ 希望を書き残したACPノートやエンディングノートがある
✅ 家族や関係者と話し合う時間を定期的に取っている
ひとつでも「できていない」と感じた項目があれば、そこから始めれば大丈夫です。
✅ ACPノートの書き方サンプル
ACPノートは特別な形式は必要ありません。
以下のような簡単な書き方でも十分意味があります。
◇ 私の大事にしていること
・家族と一緒にいること
・痛みや苦しみをなるべく少なくすること
◇ 医療・ケアの希望
・延命治療は望まない(人工呼吸器、心臓マッサージ、胃ろうなどはしないでほしい)
・意識がない状態になったら、緩和ケアを優先してほしい
◇ 最期の過ごし方
・できれば自宅で家族と過ごしたい
・家族に伝えたい感謝の言葉がある(具体的な人と内容を書く)
◇ 相談相手・連絡してほしい人
・長男の〇〇(電話番号:〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇)
・主治医の〇〇先生(連絡先:〇〇医院 〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇)
このように具体的に書き残し、家族や関係者に渡しておくだけで、いざというときの力になります。
最後に
ACPは難しく考える必要はありません。
「少しずつ話してみる」「思いを書き出してみる」。
その小さな一歩が、あなたや家族を守ります。
ぜひ、今日から始めてみてください。