高齢化が進む日本では、親の介護をどうするかが大きな課題となっています。
特に遠方に住んでいる場合、「遠距離介護」を強いられることも少なくありません。
しかし、遠距離介護には時間的・経済的・精神的な負担が伴い、実際に介護をする側にとっては大きな悩みとなることが多いです。
本記事では、遠距離介護の実態やその限界、経済的な困難、施設に任せる選択肢とその影響、そして遠距離介護を乗り越えるための工夫について解説します。
遠距離介護の実態とその限界
遠距離介護とは
遠距離介護とは、親が住む地域と自分の生活拠点が離れており、日常的に介護ができない状況で行う介護のことを指します。
例えば、東京に住む子どもが地方の実家に住む親の介護をする場合が典型的なケースです。
遠距離介護の現状
厚生労働省の調査によると、日本における介護者の約15%が「遠距離介護」をしていると言われています。
多くの人が「仕事を続けながら」「自分の家庭を持ちながら」介護をしなければならず、心身の負担が大きいのが現実です。
遠距離介護の限界
遠距離介護には、以下のような限界があります。
- 緊急時の対応が難しい
親が転倒したり、急に体調が悪くなった場合、すぐに駆けつけることができない。 - 介護の質を維持しにくい
ヘルパーやケアマネージャーに頼ることが多く、日常の細かな変化に気付きにくい。 - 仕事との両立が困難
介護のために頻繁に帰省することで、仕事を休まざるを得ず、昇進やキャリアに影響を与えることもある。
親の介護をする経済的困難
介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
- 一時費用(介護用ベッドの購入や住宅改修など):平均74万円
- 月額介護費用(介護サービス利用料など):平均8.3万円
介護を行った場所別の費用
- 在宅介護の月額費用:平均4.8万円
- 施設介護の月額費用:平均12.2万円
また、介護期間は平均61.1ヵ月(5年1ヵ月)という結果が出ています。
介護費用と介護期間の平均で試算してみると、介護費用の平均的な総額は次のような結果となります。
一時費用74万円 +(月額費用8.3万円 × 12ヵ月 × 5年)= 572万円
平均的な費用と介護期間で考えると、介護費用の総額は500万円を軽く超えてしまいます。
また、介護期間で最も多い回答は「4~10年未満」でしたが、次に多い回答が「10年以上」でした。
出典:公益財団法人生命保険文化センターが実施した「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」
介護休業の現実
厚生労働省の制度として「介護休業制度」がありますが、多くの企業では取得しづらいのが現実です。
また、介護のために仕事を辞めると収入が減り、将来の生活にも大きな影響を及ぼします。
親の介護を施設に任せる選択肢とその影響
施設介護の選択肢
遠距離介護の負担を軽減する方法の一つが、介護施設への入居を検討することです。
主な選択肢としては以下があります。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 介護度が高い人向け
- 入居費用が比較的安い(数万円~)
- ただし待機者が多い
- 介護度が高い人向け
- 介護付き有料老人ホーム
- 介護サービスが充実
- 月額費用が高め(15万円~30万円)
- 介護サービスが充実
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- 比較的自立した高齢者向け
- 必要に応じて介護サービスを追加
- 比較的自立した高齢者向け
施設入居のメリットとデメリット
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
費用 | 長期的にみると安定 | 初期費用・月額費用が高い |
介護の質 | プロの介護を受けられる | 家族との距離が遠くなる |
精神的負担 | 遠距離介護の負担軽減 | 本人の寂しさが増す |
施設を利用することで遠距離介護の負担は軽減されますが、親の気持ちや経済的な問題も考慮する必要があります。
遠距離介護を乗り越えるための具体的な工夫
地元の介護サービスを活用
- ケアマネジャーと密に連絡を取る
- 訪問介護やデイサービスを大いに利用する
- 近所の方や友人をはじめ、町内会などの地域組織や民生委員の力を借りる
IT技術を活用
- 見守りカメラを設置し、親の様子を確認
- LINEやビデオ通話でこまめにコミュニケーション
介護費用の工夫
- 公的支援を活用(介護保険、補助金)
- ふるさと納税の介護支援制度を利用
全日空・日本航空・スターフライヤー・ソラシドエアなどでは、介護割引を実施してます。
申し込みには以下が必要です。
- 介護保険証または介護認定通知
- 戸籍謄本もしくは抄本
- 現住所が記載された書類(運転免許証、パスポート、健康保険証、年金手帳、身体障害者手帳など)
また、JR各社でも、介護割引のような制度はありませんが、ネット上で早期に予約すれば5~30%の割引を受けられます。
兄弟姉妹・親族と協力
- 役割分担を決め、負担を分散
- 家族会議を定期的に開く
介護費用は、「兄弟姉妹・親族の誰がどのくらい負担するか」などのトラブルを後々引き起こさないためにも、親自身の年金収入や預貯金でまかなえるように計算していくことが基本です。
介護費用がかさむようになると、後に金銭トラブルが兄弟姉妹・親族間で発生し、不和の引き金になることもあります。
早いうちから兄弟姉妹・親族間で話し合いの場を持つことも大事です。
会社に迷惑がかからないよう早めに相談
積極的に病気やけが、介護などを理由に取得できる「介護休暇」や「介護休業制度」を利用しましょう。
最後に
遠距離介護は、時間的・経済的・精神的な負担が大きく、限界を感じることもあります。
しかし、介護サービスの活用やIT技術の導入、家族との協力によって、負担を軽減することができます。
また、施設介護を選択することで、より安定した介護環境を整えることも可能です。
何より大切なのは、「無理をしすぎないこと」です。
自分の生活を守りながら、できる範囲で最善の方法を模索していくことが重要です。
遠距離介護に悩んでいる方は、まずはできることから一歩ずつ始めてみてください。