「あれ、今何しようとしてたんだっけ……」
そんな日常の小さな“違和感”が、やがて確信に変わっていく瞬間があります。
年齢を重ねたご両親や身近な人の様子に「もしかして?」と不安を感じたことはありませんか?
認知症のはじまりは、本人にとって“自分が自分でなくなる”かのような怖さを伴います。
そしてそれは、そばにいる家族にとっても苦しく、どう関わってよいのか分からなくなる時期でもあります。
本記事では、認知症の初期段階=混乱期に見られる本人の心理的な変化に注目し、私たちが本当にできる寄り添い方について解説します。
励ましよりも大切な“共感”の姿勢とは何か、避けたいNG対応とは。
介護がはじまる前に知っておきたい「心のケア」の第一歩を、一緒に考えていきましょう。
認知症初期に表れる“記憶の揺らぎ”とそのサイン
認知症の初期症状は、いわゆる「物忘れ」だけではありません。
以下のような変化が見られた場合、本人は内心強い動揺と不安を抱えている可能性があります。
- 短期記憶の抜け落ち:約束をすぐに忘れてしまう、同じ質問を何度も繰り返す
- 日常動作のミス:料理の手順を間違える、電話のかけ方がわからなくなる
- 時間や場所の感覚の混乱:今が何月何日か答えられない、外出先で迷う
- 性格の変化:イライラしやすくなる、頑固になる、逆におとなしくなる
これらは加齢による“単なる物忘れ”とは異なり、「認知の機能」そのものに変化が起きている兆候です。
混乱期に起きる心の揺れ――本人はどんな気持ちでいるのか
認知症の方は、記憶が曖昧になるだけでなく、“できない自分”に対する怒り・不安・悲しみと戦っています。
これは「認知症と診断される前後のグレーゾーン」で特に顕著に表れます。

主な心理状態
- 自尊心の喪失:「私はまだしっかりしてるはずなのに…」という葛藤
- 自己防衛的な言動:できないことを責められたくなくて怒ったり、話をそらしたりする
- うつ状態のリスク:自信をなくし、外出や人と話すことを避けるようになる
この時期のケアは、理屈ではなく“心に寄り添う姿勢”が何より重要です。
家族にできること:共感と傾聴の大切さ
「なんて声をかけたらいいか分からない」
「励ましたつもりが、逆に怒らせてしまった」
こんな経験はありませんか?
認知症初期の方にとって大切なのは、自分のつらさや不安を“そのまま受け止めてもらえる”ことです。
家族ができる3つのこと
傾聴する(アクティブリスニング)

ただ話を聞くのではなく、うなずき、同じ言葉を返し、共感を伝える姿勢が大切です。
例:「最近、忘れっぽくなってきて…」→「そうか、それは不安だったよね」
環境を整える
- 物の置き場所にラベルを貼る
- スケジュールを写真付きで提示する
- 毎日のルーティンをシンプルに保つ
「思い出せない」ことが減り、自信を保ちやすくなります。
できることに焦点を当てる
- 食事の準備で盛りつけだけ任せる
- 家族の前で昔話をしてもらう
「まだ役に立てる」という感覚が自己肯定感を支えます。
「つらいね」と声をかけるだけで脳にも良い影響

実は「共感的な声かけ」は、脳科学的にも有効とされています。
- 共感されるとストレスホルモン(コルチゾール)が減少
- 感情を共有することで前頭前野が活性化し、注意力や判断力の維持に役立つ
- 孤独感や恐怖感が和らぎ、BPSD(行動・心理症状)発症の予防にもつながる
だからこそ、「つらいよね」「不安だよね」という共感の一言が、単なる励ましよりも効果的なのです。
やってはいけないNG対応集
以下のような対応は、本人の不安や混乱をかえって悪化させる恐れがあります。
NG行動 | なぜ良くないのか |
---|---|
「何度も言ったでしょ!」と叱る | 自尊心を傷つけ、攻撃的になりやすい |
「そんなことない、大丈夫」と根拠なく励ます | 本人は現実とのギャップに苦しんでいるため、否定されると余計につらくなる |
子ども扱いする | “できること”があるのに過剰に手を出すと、意欲が失われる |
まとめ:答えが出なくても「共にいる」ことが最大の支え

認知症初期の混乱期は、本人にとって「何が起きているのか分からない恐怖」との戦いです。
そして、そんな不安定な心を、そばにいる家族がそのまま受け止めるだけで、大きな力になります。
介護に完璧な対応などありません。
でも、「つらいね」「大変だよね」と共に感じる姿勢が、何よりの支えになります。
今、何かしてあげたいと思う気持ちそのものが、きっとその人の心に届いています。