高齢の家族が入院したとき、多くの方は「無事に退院できればそれで一安心」と感じるかもしれません。
もちろん、入院という大きな山を越えたことは大きな前進です。
しかし実は、退院後の生活こそが、介護の本当のスタート地点になる場合が少なくありません。
医療現場や介護の現場では、よくこう言われます。
「退院してからが本番」だと。
それはなぜでしょうか?
高齢者の体は非常に繊細で、周囲の環境や生活リズムに大きく影響されやすいのです。
入院中はベッドでの生活が中心となり、食事も点滴に頼り、排泄もカテーテル、入浴も機械にゆだねられることが増えます。
一見すると安全で安心な環境に見えますが、これが「自分でやる機会」を失うことにつながり、結果的に身体機能を低下させるリスクとなってしまうのです。
本記事では、そんな退院後の介護で気をつけたいポイントをわかりやすく解説しながら、「ごはん・お風呂・トイレ」こそがリハビリの柱である理由をお伝えしていきます。
入院生活がもたらす身体への影響
入院生活では、治療を優先するために、さまざまなサポートを受けることになります。
たとえば以下のような支援が一般的です。
- 点滴で栄養を補給(=食事をしない)
- 機械浴での入浴(=自力での入浴なし)
- 尿カテーテルやオムツの使用(=トイレに行かない)
これらは医療上必要な対応ではありますが、本来、自分の意志と動作で行っていた「食べる・入る・出す」という行為をしない期間が続くことで、体はどんどん「使わない=できなくなる」状態に向かってしまいます。
身体機能が衰えると…
- 筋力・持久力の低下
- 関節の可動域の縮小
- 嚥下(えんげ)機能の衰え
- 認知機能の低下
- 意欲の喪失
これらはすべて、退院後の生活に影を落とす原因になりかねません。
回復のカギは「日常を取り戻すこと」
では、退院後にどんなケアをすればいいのでしょうか?
特別なリハビリ器具や専門的なトレーニングをイメージするかもしれませんが、実はもっとシンプルで確実な方法があります。
それが、「日常生活を取り戻すこと」です。
「ごはん・お風呂・トイレ」を日常に戻す
この3つの基本動作を、できるだけ入院前のように戻していくことが、最高のリハビリになります。
◆ ごはん(食事)

- 自分で箸やスプーンを使って食べる。
- 食卓に座り、家族と一緒に食べる時間を持つ。
- 噛む・飲み込む練習にもなり、誤嚥予防にもつながります。
◆ お風呂(入浴)

- 入浴は体力を使う行為。
見守りながら、可能な範囲で自力での動作を促しましょう。 - 着替え、移動、湯船の出入りが筋力回復にも役立ちます。
◆ トイレ(排泄)

- オムツからトイレ使用への切り替えは、「自分でできる」自信を取り戻す重要なステップです。
- トイレに行く動作そのものが、立つ・歩く・座るという運動になります。
一度寝たきりになっても回復できる
「うちの親はもう寝たきりで無理かも…」
そう感じてしまう方もいるかもしれませんが、一度寝たきりになっても、生活の中で少しずつ回復していくケースはたくさんあります。
ポイントは、焦らず、段階的に、本人のペースを尊重しながら日常に戻すこと。
- 最初は「食事のときに座るだけ」でもOK
- トイレへの移動を1日1回目指す
- 入浴は週に1回からスタート
このようにハードルを低く設定し、小さな成功体験を積み重ねることが大切です。
ご家族・介護者ができること
ご家族や介護スタッフがやるべきことは、すべてを「してあげる」ことではありません。
むしろ、「できることを“奪わない”こと」こそが、介護の重要な姿勢です。
- 本人ができる範囲は見守る
- 危険な部分や難しい部分だけ手を貸す
- 小さな「できたね!」を見逃さずに褒める
このような姿勢が、本人のやる気・意欲を引き出し、回復を後押しします。
まとめ:退院後こそが介護の勝負どころ
高齢者の介護において、入院という出来事は大きなターニングポイントです。
しかし、本当に大切なのは「退院後にどう過ごすか」です。
退院後の生活で、特別なことをしなくても大丈夫。
むしろ、「ごはん・お風呂・トイレ」という日常生活の再開こそが、最大のリハビリであり、最良の介護になります。
ご家族としても、完璧を目指す必要はありません。
少しずつ、ふだんの暮らしに戻していく過程を、本人と一緒に歩んでいくこと。
それが、寝たきりを防ぎ、笑顔のある介護生活につながっていきます。